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高松高等裁判所 昭和56年(ネ)251号 判決 1982年2月24日

控訴人 加藤正義

右訴訟代理人弁護士 早渕正憲

被控訴人 株式会社 ジャックス

右代表者代表取締役 河村友三

右訴訟代理人支配人 立浪紫

右訴訟代理人弁護士 近石勤

桑城秀樹

主文

原判決を取り消す。

被控訴人が山口泰史に対する大阪法務局所属公証人岡村利男作成の昭和五二年第一〇八六号公正証書に基づき、昭和五六年七月二九日別紙物件目録記載の物件に対してした強制執行は、これを許さない。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一申立て

(控訴人)

主文と同旨

(被控訴人)

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二主張

当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人)

一  本件物件については、控訴人と山口泰史との間で昭和五五年九月二七日を期限とする買戻約款が付されていたが、山口泰史が同期限までに債務の支払いをしなかったので、同期限の徒過に伴い、控訴人は、完全に本件物件を所有することになった。

二  動産の譲渡担保権者は、従前、第三者異議により執行を全面的に排除することはできず、旧法第五六五条の優先弁済の訴えによって自己への優先弁済を請求しうるのみとの見解もあったが、昭和五五年一〇月一日から施行されている民事執行法は優先弁済請求の訴えを廃止するとともに動産の配当要求権者は先取特権者と質権者に限定し、譲渡担保権者の配当要求を認めていない(法第一三三条)。したがって、動産の譲渡担保権者は、第三者異議の訴えにより自己の権利保護を図ることができるものと考える。

(被控訴人)

一 控訴人と山口泰史は、債権者の追求を免れるため、本件ピアノほか七二点について譲渡担保とする意思がないのに、その意思があるもののように仮装する合意をしたもので、通謀虚偽表示として無効である。

二 仮に、右譲渡担保契約が有効であるとしても、動産の譲渡担保権者である控訴人は、第三者異議の訴えを提起することはできない。すなわち、譲渡担保の法律構成について、従来の所有権移転的構成に代わり、今日では、担保的構成として把握するのが多数説であり、判例も同様の方向にある。ところで、民事執行法は、これに関し何らの立法的規制をしていないが、これは、立法者が譲渡担保につき従来の所有権的構成を維持し、譲渡担保権者に第三者異議の訴えを認めると考えたからではなく、民事執行法で手続法的な角度からのみ対策を講ずることは問題であるとの理由によるものであり、その解決は、将来の立法や学説の展開に委ねられているとみるべきである。そして、その方向は、前記判例や学説の方向、既に国税徴収法や仮登記担保法が打ち出している非典型担保権もできるだけ法定担保権と同列に扱うという態度を解釈上の基本方針として堅持すべきものである。そして、譲渡担保権者には、民事執行法第一三三条類推適用によるか、第三者異議の訴えのいわば一部認容の一態様として、優先弁済権のみを認める判決がなされるにすぎないものである。

第三証拠《省略》

理由

一  被控訴人が本件物件について控訴人主張のとおりの差押えをしたこと、本件物件は控訴人がその主張のとおりの譲渡担保契約により山口泰史から譲受け、占有改定の方法によりその引渡しを受けて所有するに至ったもので、山口泰史が引き続きこれを使用していることは、当事者間に争いがない(《証拠省略》によると、控訴人が山口泰史と右譲渡担保契約をしたのは、昭和五三年九月二日ではなく同月二八日であると認められる。)。

被控訴人は、本件譲渡担保契約は控訴人と山口泰史の通謀による虚偽表示であり無効であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。かえって、《証拠省略》によると、控訴人は、昭和五一年ころから、山口泰史に対し手形を差入れさせて金融をして来たが、同五三年ころ、その手形が不渡りになったところから、山口泰史に対し、本件物件ほか衣類、家具を担保として提供するように迫ったので、山口泰史は、やむなくこれに応じて本件譲渡担保契約をなし、その旨の公正証書を作成するに至ったこと、本件物件は、本件譲渡担保契約の目的物件の主なもので、昭和五六年七月二九日の本件差押えの際、執行官から合計金五二万七〇〇〇円と評価されたものであることが認められる。

右認定事実に前記争いのない事実を総合すると、本件譲渡担保契約が通謀による虚偽表示であると認めることはできない。

二  そこで、動産の譲渡担保権者が第三者異議の訴えにより強制執行を全面的に排除することが許されるかどうかについて考える。

本件強制執行につき適用される民事執行法は、民事訴訟法旧第五六五条が定めていた優先弁済請求の訴えを認めないことになったうえ、動産に対する強制執行において配当要求をすることができる者を先取特権又は質権を有する者と定めている(民事執行法第一三三条)。このように民事執行法と民事訴訟法旧規定と対比してみると、民事執行法第三八条第一項にいう「所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有する第三者」に動産の譲渡担保権者も含まれるものと解するのが相当である。

もっとも、譲渡担保の法律構成においては所有権移転の面を強調するあまり担保目的の譲渡である面を軽視することができないことはいうまでもない。そして、国税徴収法第二四条、仮登記担保契約に関する法律は、非典型担保権につき、法定担保権と同様な取扱いをしようとしているもので、このような傾向から考えると、譲渡担保権者に第三者異議の訴えの提起を許容することは問題であるかもしれない。しかしながら、譲渡担保権者に第三者異議の訴えの一部認容の態様として優先弁済権のみを認める判決ができるとする考え方は、民事執行法が優先弁済請求の訴えを認めなくなった立法の経過及びこれを認めるとした場合にその手続をどのようにすべきかという点で執行実務に重大な影響を及ぼすことにかんがみると直ちに採用できないし、また、民事執行法第一三三条の規定を類推して譲渡担保権者に対し、その担保権実行の方法として配当要求のみを認める反面、第三者異議の訴えを否定する見解は、立法論としてはともかく、解釈論としては、履行期未到来の譲渡担保権者の取扱いをどうすべきかなどにつき法規の定めを欠き、それらの執行処理上、問題があるので、全面的には採用できない。

三  しかし、譲渡担保の被担保債権が既に確定して履行期も到来し、かつ、その債権額が物件価格よりも少額でいわゆる無清算の特約が認められない場合にその物件に対する一般債権者の執行が開始されたような場合には、その執行手続内で譲渡担保権者に配当要求を認めて優先弁済を得させる方が、譲渡担保権者が別途に第三者異議の訴えを提起して、さらに清算手続を履行しなければならないのと比較して簡便であるといえるので、以下本件譲渡担保に無清算の特約があるか否かを検討する。

《証拠省略》によると、山口泰史は、控訴人との間で、本件譲渡担保契約をした際、昭和五五年九月二七日までに同契約の売買代金とその契約につき控訴人が支出した費用を現実に債権者である控訴人に提供することにより買戻しができ、もし、同期日を徒過したときは、当然にその買戻権を失い、控訴人が本件物件等の所有権を完全に取得する旨約したが、右期日までに本件物件を買戻さなかったこと及び本件譲渡担保の目的物件は中古品であり、その合計価額と山口泰史の控訴人に対する金銭債務額とは合理的均衡を失しないものであり、本件物件の合計価額は本件譲渡担保の被担保債権額よりも少額であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によると、山口泰史は、控訴人との間で本件譲渡担保契約に際し、流担保(無清算)の特約をなし、その特約に定められた買戻期間の経過により、本件物件の所有権は確定的に控訴人に帰属するに至ったものであって、控訴人には清算金の支払義務はないというべきである。

そうすると、控訴人の本件譲渡担保には無清算の特約があるので、第三者異議の訴えを否定すべき理由がないといわなければならない。

四  よって、控訴人の本訴請求は理由があり、これと異なる原判決は失当であるから、これを取り消して、控訴人の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菊地博 裁判官 滝口功 川波利明)

<以下省略>

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